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2013年 夏の北極海氷分布予報


2013年5月31日


内田貴也・広川英司・舟橋亮佑・中原洋・和田拓也

中野佑哉・木村詞明・山口一

 


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解説



今年は4年生の 内田・広川・舟橋・中原・和田 が東京大学工学部の領域プロジェクトとして、この予測に取り組みました。


近年、夏季北極海の海氷面積が急速に減少してきています。また、長期的な減少だけでなく、北極海の夏の海氷分布は年によって大きく異なります(図5)。

北極海のロシア、カナダの両側で、昨年の冬から今年の春にかけて海氷の動きが平年より大きく、特にロシア側沿岸域では多くの海氷が流出しました。このため、両沿岸域ともに春季の海氷が薄く、今後の海氷域の後退が早く進行すると考えられます。これらの海域では、7月下旬から8月上旬にかけて海氷がなくなり、航路が開通することが予想されます。特にシベリア沿岸中央部のラプテフ海とカラ海での海氷後退が早く、7月上旬には広い開水面域ができるでしょう。


図2は7月1日から11月1日までの海氷分布推移の予測をアニメーションにしたものです。

図3. ロシア側航路の開通時期(左図)とカナダ側航路の開通時期(右図)の予想海氷分布

図3は7月21日および8月6日の海氷密接度の予測図です。図4は海氷総面積の経年変化と2013年度の海氷面積の予測を示しています。計算手法については下で説明します。

図7. 2013年の粒子の移動のアニメーション

粒子が疎の所が海氷の発散、密の所が収束を示す

図1. 2013年の9月11日の海氷分布:予測値(色は計算により得られた海氷密接度分布)

※各場所から周囲150kmの範囲の海氷密接度を示したもので、実際の氷縁位置はより内側になります

北極航路の利用や海氷予測、ここで用いた予測手法についてご質問がある場合は、山口または木村までお問い合わせください。また、この予測手法のもとになる成果が科学誌に掲載されていますので、興味のある方はご覧ください。[こちらです]


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図5. 過去10年分の9月11日の海氷分布

過去の研究から、冬から春にかけての海氷の動きと夏季の海氷分布との間に密接な関係があることが分かってきました。この期間に海氷が密集する場所では海氷が厚くなり夏に融けにくく、逆に発散する場所では薄い海氷が多くなり夏に融けやすくなります。今回の解析もその知見をもとに行いました。


まず、各年の12月1日の海氷域上に計算のための粒子を等間隔で配置します。粒子の数は11243個です。次に、人工衛星搭載のマイクロ波放射計 AMSR2 による観測画像から独自に計算した毎日の海氷の動きのデータを使って、この粒子を動かします。こうして得られた4月末の粒子分布を解析します。2013年4月末時点で粒子が密集する場所と発散する場所を示します(図6)。図7に粒子の移動の動画を示します。


この方法は

 1. 12月1日の時点ですでに存在する氷は厚い氷である

 2. その厚い氷が発散して海水面が露出すると、そこは薄い氷で覆われる

 3. 厚い氷は融けにくく、薄い氷は融けやすい

という仮定のもとで行なっています。


昨年は、カナダ沖で海氷の後退が早くシベリア沖で遅くなると予測し、それが現実のものとなりました。ただし、この予測は春の海氷の厚さ分布を推測し、その時点での海氷の潜在的なとけやすさを見ているに過ぎません。5月以降の気象条件は考慮されていないため、それによっては予測と大きく異なる場合もあります。


*昨年はマイクロ波放射計AMSR-Eによる観測が停止したため、SSM/Iのデータをもとに予測を行ないましたが、今年は昨年観測を開始したAMSR2のデータを用いています。AMSR2の解像度はSSM/Iに比べて高いため、予測精度も向上すると期待されます。

図6. 2013年4月30日の粒子分布

<予測手法>



過去8年間(2003年〜2006年、2008年〜2011年(*))の

・冬~春期における海氷の動きのデータ

・海氷の密接度のデータ

を用いて、今年4月末の時点での粒子の分布と7月〜11月の各海域での海氷面積を解析しました。

まず、北極海を覆う解析範囲に37.5km間隔で参照点を配置し、各点から半径150kmの範囲内での12月1日に等間隔に配置した粒子を動かしたあとの4月30日の粒子数」と「夏季の注目する日の海氷面積」を計算します。次に両者の線形関係式を求め、それを基に今年の4月末の粒子数から、7月〜11月の海氷面積の予測値を出しました。


*2007年は夏の気象条件が海氷域の後退に強く作用した影響で、データが著しく傾向から外れているため、除外しました。



図10は、8年分のデータをもとにした4月30日の粒子の数と9月の海氷密接度との関係を示す散布図と回帰直線の例です。この関係式を用いて、矢印のように4月末の粒子数から夏季の海氷面積を予測します。


















図10. 例:4月30日の粒子数と9月11日の海氷密接度の関係(粒子数は面積に変換)


4月30日の粒子密度と9月11日の海氷密接度の相関係数分布を図11に示します。海氷域の年変化が大きい海域では高い正の相関になっており、上記の関係で夏季の海氷分布が予測可能なことが分かります。




















図11. 4月30日の粒子密度と9月11日の海氷密接度の相関係数分布


今年は海氷域が再び広がる11月まで上記の手法で海氷分布の予測を行いました。しかし、9月以降は相関係数が急速に低くなり精度が落ちてしまうため、この手法単独では信頼できる予測とは言えません。


そこで、それとは別に、各年7月20日の海氷分布と10月20日の海氷分布の関係を調べました。海氷の融け残り方が張り出しにも影響しているのではないかと考えたためです。実際に過去の観測結果をもとに計算してみると、両者の間には多くの領域で強い相関関係があることがわかりました(図12)。7月に遅くまで海氷が残っている海域ほど、10月に早く海氷に覆われるのです。上記(図2)の海氷予測でも7月20日と10月20日の海氷分布は似たものとなっていることから、今年の予測は海氷域の拡大期においてもある程度信頼できると考えられます。












図12. 点A(左:ロシア側航路)と 領域B(右:カナダ側航路) の

7月20日と10月20日の海氷面積の年々変化:SSM/Iによる観測値

図4. 9月11日の海氷面積の経年変化、及び2013年度の予測面積

図2. 海氷分布予測の動画

図8. 今年の手法を用いた海氷密接度予測

図9. 昨年までの手法を用いた海氷密接度予測


  ① 海氷面積は最小記録を更新することが予想されます

  ② ロシア側、カナダ側ともに航路が開通することが予想されます

    ロシア側は7月21日頃、カナダ側は8月6日頃に開通すると見込まれます

この予測およびその基礎となる研究は、情報・システム研究機構 国立極地研究所が代表機関となって文部科学省グリーン・ネットワーク・オブ・エクセレンス(GRENE)事業北極気候変動分野 「急変する北極気候システム及びその全球的な影響の総合的解明」で実施しています

7月21日

8月6日